ニュースの概要
バルセロナを拠点とするフレキシブルオフィス運営会社Aticcoが、ポルトガルのコワーキング運営会社Nimbler Spacesから、リスボン中心部の2拠点を買い取った。面積は合わせて約8,000平方メートルで、Aticcoにとってはポルトガルでの足場を一度に築く取引となる。新規出店で一から会員を集めるのではなく、すでに入居者のいる既存拠点を引き継ぐ形である。金額などの細かな条件は要約からは分からない。それでもスペインの事業者がイベリア半島の隣国へ広げる動きは、欧州のコワーキング業界で国境をまたぐ統合が進んでいることをよく映している。
引用元: スペインのAticco、ポルトガルのコワーキング運営会社を買収しリスボンへ拡大(Ground News)
分析・見解
新規出店ではなく買収を選んだ理由
コワーキング事業は、物件を借り、内装を整え、会員が集まるまで赤字が続く。黒字になるまで1年以上かかることも珍しくない。既存の拠点を買えば、この助走期間を省ける。会員がいて、賃貸契約も運営の仕組みも動いているからだ。
Aticcoにとって約8,000平方メートルは、場所だけでなく、現地の相場や客層を知る時間を買う意味も持つ。リスボン中心部は条件の良い物件が取り合いになりやすい。自力で2拠点を押さえるのは簡単ではない。
WeWork破綻のあと、拡大の仕方が変わった
2023年11月にWeWorkが米国で破産申請をして以降、業界は賃料を固定で背負う急拡大から距離を置いてきた。代わりに増えたのが、家主との収益分配契約や、既存の運営会社の買収である。今回も、世界的な大手が乗り込んだのではない。地域の中堅が、地元の運営会社を引き継ぐ形だ。派手さはないが、赤字の穴を掘りにくい堅実な広げ方といえる。
リスボンの追い風と、スペイン企業が持つ地の利
ポルトガルは2022年にデジタルノマド向けの長期滞在ビザを設け、遠隔勤務者を受け入れてきた。リスボンでは2016年から大型技術イベントのWeb Summitが開かれ、起業家も集まる。英語が通じやすく、物価も西欧の主要都市より低めとされてきた。ただし家賃は上昇し、住宅問題が社会的な争点になっている。運営会社にとっては、客が増える好材料であると同時に、賃料負担が重くなる危険でもある。
スペイン企業から見ると、言語が近く、EUの共通ルールで事業を進められる。バルセロナとリスボンは飛行機で1時間半ほどだ。同じ会員が両都市を行き来する使い方を作りやすい。
買収の本当の価値は、建物より運営の記録にある
コワーキングの収益は、入居率、解約の時期、会員の業種の偏りなど、運営の細かな記録で決まる。建物は他社も借りられる。しかし数年分の会員の動きは、買わなければ手に入らない。Aticcoが得たのも、リスボンで誰がいくらで、どれだけ長く使うかという実データだろう。
一方、統合後の作業は重い。拠点ごとに内装や料金、会員層が違う。体験をそろえすぎれば地元色が消え、そのままにすればネットワークの意味が薄れる。すでに多都市で会員制を運営する大手に対し、中堅連合が差別化できるのは、地域に根ざした小規模な空間づくりだ。今後は、3拠点目をどこに置くか、ポルトのような第2の都市へ広げるかが試金石になる。
ビジネスへの影響
欧州に拠点を置く企業は、短期契約で市場を試せる
日本の企業やスタートアップが欧州展開を考えるとき、長期の賃貸オフィスは重い負担になる。コワーキングなら、数人から月単位で借りられ、撤退も早い。リスボンのように人気の都市では、運営会社の統合で選べる拠点が増え、複数都市の利用を1契約にまとめる提案も出てきやすい。
ただし、運営会社が変わると、料金や会員規約が改定されることがある。すでに契約している企業は、更新時期、解約の通知期間、会員証を他拠点で使える範囲を早めに確認したい。
運営会社や投資家が買収候補を見るときの三つの視点
一つ目は入居率の推移だ。満室の瞬間より、過去2〜3年の平均と季節による波を見る。二つ目は賃貸契約の残り期間と賃料改定の条件である。契約が短い拠点は、買った直後に家主から値上げを求められかねない。三つ目は会員の偏りだ。一つの業種や少数の大口に頼る拠点は、数社が抜けただけで収支が崩れる。
この三点は、バンコクなど他の都市で拠点を探すときにも使える。買収は建物の数を増やす取引ではなく、会員から入る安定した収入を引き継ぐ取引だと考えると、見るべき数字が定まる。
価格競争より、使い勝手で選ばれる運営を目指す
市場が統合に向かうほど、料金だけの競争は消耗戦になる。会議室の予約のしやすさ、受付の対応、近隣の飲食店との連携、郵便の受け取りなど、小さな使い勝手が更新率を左右する。買収後の最初の半年は会員への聞き取りを行い、残す点と変える点を公表すると、離脱を抑えやすい。
