ニュースの概要
CBRE傘下の運営会社Industriousが、米サンディエゴ中心部のCore Columbia拠点を約2万7,000平方フィート拡張し、総面積を従来の倍近い約5万4,000平方フィートに広げると発表した。増床の理由として運営側が挙げたのは、柔軟な働き方を求める企業や個人の需要が今も衰えていないという点だ。新規拠点の開設ではなく、既存拠点をそのまま拡張する形を取ったことは、実需の裏付けがある動きだと読み取れる。コロナ禍後の「オフィス回帰」報道とは異なる現実が、米国の都市部で静かに進行していることを示す事例といえる。
引用元: CBRE、サンディエゴのIndustrious拠点を拡張し面積を倍増(PRNewswire)
分析・見解
新規開設でなく増床を選んだことの意味
不動産業界でコワーキング拠点が語られるとき、話題になりやすいのは新規開設のニュースだ。しかし今回Industriousが選んだのは、既存のCore Columbia拠点をそのまま拡張するという地味な決断だった。新規拠点は立地選定や需要予測という賭けの要素が大きいが、既存拠点の増床は稼働率と待機需要という実績データに基づく判断になる。つまり今回の発表は、サンディエゴ中心部で実際に席が埋まり、入居待ちが発生していたことの間接的な証拠だと見ていい。
サンディエゴとバンコクに共通する需要の構造
サンディエゴのような米国地方都市とバンコクは一見遠い存在に見えるが、コワーキング需要を押し上げる要因は共通している。中心部のオフィス賃料が高止まりする一方、企業は固定費としての本社機能を最小化し、必要な分だけ拠点を借りる方向へ動いている。バンコクでもスクンビットやサイアム周辺で同様の動きがあり、地場運営会社と外資系運営会社が同じビルの中で競合する場面も増えている。米国発の需要トレンドは、数年遅れでアジアの主要都市にも波及してきた経緯があり、今回の事例もその延長線上で捉えるべきだろう。
ハイブリッド勤務と「オフィス回帰」報道の食い違い
ここ数年、大手企業による出社義務化のニュースが目立ち、コワーキング需要は縮小しているという印象を持つ読者も多いはずだ。しかし実際に増えているのは、大企業一社がフロア全体を借り切る従来型の契約ではなく、中小企業やチーム単位、あるいは個人事業主が数席から数十席を柔軟に借りる契約だ。出社義務化の対象は主に大企業の本社機能であり、それとは別の層でコワーキング需要が積み上がっている。この二つの動きは矛盾せず、並行して進んでいると理解する方が実態に近い。
不動産大手による運営会社の取り込みが加速する
今回の主体がCBREという世界最大級の不動産サービス会社である点も見逃せない。かつてコワーキング運営は独立系のスタートアップが主役だったが、資金力と物件情報を持つ不動産大手が運営会社を傘下に収め、既存物件の空きスペースをコワーキングとして転用する流れが強まっている。これは運営会社にとって出店コストを抑えられる利点があり、不動産会社にとっては空室リスクを吸収できる利点がある。両者の利害が一致する限り、この統合は世界各地で続くと見ていい。
ビジネスへの影響
拠点選定では「新設ラッシュ」より稼働実績を見る
コワーキング拠点を利用先として検討する企業や個人事業主にとって、開設したばかりで目新しい拠点よりも、増床や複数拠点展開を重ねている運営会社を優先する方が安全だ。増床という判断は、その運営会社が実際に稼働率を維持できていることの裏付けであり、契約後に料金改定や急な撤退といったリスクに直面する可能性が相対的に低い。拠点見学の際は、開設時期だけでなく直近の増床・閉鎖履歴を運営会社に確認すべきだ。
アジア進出企業は米国型の柔軟な契約単位を参考にできる
サンディエゴの事例のように、数十席規模を柔軟に借りる契約が一般化すれば、バンコクなど東南アジアの拠点でも同様の契約メニューが広がる可能性が高い。進出企業の担当者は、固定席契約だけでなく、チームの増減に応じて席数を調整できる契約形態を運営会社に確認しておくと、事業拡大や縮小の局面で無駄な固定費を抱えずに済む。
大手系列とローカル運営、使い分けが交渉の鍵になる
CBRE系列のような不動産大手はブランドの安定感がある一方、料金は相対的に高めになりやすい。地場の独立系運営会社は価格交渉の余地が大きいものの、経営基盤の持続性を見極める必要がある。拠点選定の際は、運営会社の資本背景と過去の増床・閉鎖実績の両方を確認することが、実務上のリスク管理として有効だ。
